久しぶりに小説を読みました。
『ことり』は2016年1月に発刊された小説です。
最近はKindlやAudibleで実用書やビジネス本などを読むことが多くなりました。
ふらりと立ち寄った書店に平積みにされていたこの本になぜだか目が止まり、購入。
小説家の細やかな文章に引き込まれて、素敵な時間を過ごすことができました。
タイトル『ことり』に込められたのは主人公の一生。
主人公の死から始まる物語
小鳥の小父さんが死んだ時、遺体と遺品はそういう場合の決まりに則って手際よく処理された。つまり、死後幾日か経って発見された身寄りのない人の場合、ということだ。
冒頭から主人公が死んでしまった。
それも孤独死。
これからどんな物語が紡ぎ出されるのか期待が高まります。
小鳥は籠を飛び出し、遺体の上を一巡りしたあと、窓から去っていった。誰もそれを止めることはできなかった。
小鳥まで飛んでいってしまった。
この小鳥が「メジロ」であることが書かれていました。
ああ、それで、表紙の小鳥はカラフルでも可愛いでもないのだと妙に合点がいきました。
幼稚園の小鳥たちの世話を続けた小父さん
「小鳥の小父さん」がそう呼ばれるようになったきっかけが語られていきます。
子供が苦手だったのにも関わらず、なぜ、幼稚園の鳥小屋へ通うようになったのか。
修行僧のようにただ黙々と小鳥の世話を続ける小父さん。
ひとしきりすべてをやり尽くして満足した子供らは、もう小鳥に用はない、というきっぱりとした様子で思い思いの方向へ走り去っていった。
「さよなら、小鳥の小父さん」
「小鳥の小父さん、また来てね」
最後まで子供らは彼のことを、小鳥の小父さんと呼び続けた。
小鳥の言葉を理解する「お兄さん」
小父さんと幼稚園の鳥小屋を結びつけたのは、七つ年上のお兄さんでした。
お兄さんは11歳を過ぎたあたりから、自分で編み出した言葉を話し出します。
動揺する母親、途方に暮れる父親。そして、父親は仕事部屋にこもってしまいます。
「お兄さん」の言葉を唯一理解できる「小父さん」
母親にとって一つの希望の光が差したのは、弟にだけは言葉が通じていると気づいた時だった。
「なぜわかるのか」は小父さん自身にもわからなかったけれど、
とにかく小父さんはお兄さんの言葉を理解できたのです。
そのお兄さんが話す言葉が小父さんを小鳥と結びつけます。
お兄さんの「小鳥は僕たちが忘れてしまった言葉を喋っているだけだ」という言葉が印象的でした。
二人の暮らし、そしてひとりの暮らし
両親が亡くなり小父さんとお兄さんの二人だけの暮らしが長く続きます。
二人の暮らしは毎日規則正しく、淡々と続いていきます。
二人で様々な習慣を築き上げていきます。
そして、ある日訪れるお兄さんの死。
その出来事によって小父さんは「小鳥の小父さん」になります。
コスモスを生けるのが園長先生にとっての供養であるならば、自分にとってのそれは鳥小屋を世話することだ。
ただ大切なものを守るために
小鳥の言葉を話す「お兄さん」を守り抜いて一人になった小父さんの暮らしは続きます。
小父さんにとって大切なものとの出会いが描かれます。
その大切なものをただ守っていきたいという儚い望み。
そして「ことり」の謎。
冒頭、窓から飛び去ったメジロとの出会いが小父さんの運命を大きく動かしていきます。
まとめ
久しぶりに読んだ小説は悲しいけれど、暖かい、そして切ない……
そんな物語でした。
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