『非色』は1964年に発表された「戦争花嫁」林笑子が主人公の小説です。
使われている言葉の問題からか、2003年の重版を最後に重版未定になっていたこの作品が、2021年に復刊され話題になっているということをニュースで知り読んでみました。
言葉に現れる差別意識
主人公は戦後間もない東京でアメリカ軍の伍長である黒人のトムと結婚、そして娘を出産します。
現在では差別的とされ使用できないけれど、作品が書かれた時代には普通に使われていた言葉によって繰り広げられる、戦後間もない頃の日本人の会話。
あんな黒いのに抱かれても嫌じゃないのか、混血児が私の孫だなんて
笑子の母の言葉です。
笑子が娘を連れて銭湯へ行く場面も当時の日本の状況を表しています。
こんなこと言うなんてひどい。昔の日本人は差別意識が強かったんだ。差別することはいけないこと。私は人を差別しない。差別するなんて…
80年近く前の世界には、あからさまな「差別」が溢れていたのです。
アメリカに渡った「戦争花嫁」
笑子の結婚相手はニグロと呼ばれていたアメリカ系黒人。
そのほかにも「戦争花嫁」としてアメリカに渡った日本女性が描かれています。
それぞれの結婚相手の人種により、彼女たちの運命も大きく変わっていきます。
アメリカのニグロ、アフリカのニグロ、イタリア系アメリカ人、プエルトリコ人、ユダヤ人…
笑子は肌の色の違いからくる差別のほかにも様々な差別があることに気づいていきます。
それは笑子自身の中にもありました。
「人種」「国籍」「性別」「家柄」「所有財産」「外見」「使うものと使われるもの」…
人間は自分とその他の「差」を意識し、優越感に浸ることから逃れられないのかもしれません。
ニグロとして生きていく
ニューヨークで4人の子供の母親となった笑子。
国連で働く日本人女性との出会いなどを経て、ある決意をします。
それが「優越意識」と「劣等感」が渦巻く社会で生き抜くために必要なことであると確信したのです。
自分の中の差別意識と向き合う
今も人種差別問題は存在しています。
「BLM(ブラック・ライブズ・マター)黒人の命も大切だ」というスローガンのもとに繰り広げられた抗議活動も大きな話題になりましたが、問題の解決には至りません。
人種だけではなく、性別や外見、生活水準など多くの差別もなくなっていません。
「かわいそう」「大変だろう」「気の毒に」…と感じるだけで終わらせている私の中にも間違いなく差別意識があるのだと思います。
日本語教師として、様々な国から来日した学生との関わりの中で、私の言葉で傷つく人を出したくはありません。
攻撃したり、傷つけたりする意図がない言葉の中に潜んでいるかもしれない差別意識に、無頓着にならないようにしたいと思わせてくれた作品でした。
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